医者は、どうしても治したいと強く思います


近所の先生からの紹介で、ヘモグロビン値が3.5mg/dlという強度の貧血の方がきました。
ちなみにヘモグロビンの正常値は14.0mg/dl以上ですから、普通の人の約1/4しか赤血球がないことになりますから驚きです。顔は真っ白で、3-4ヶ月前から動悸とだるさで辛かったようです。
どうしてこんなになるまで…
と、つい思ってしまいましたが、
そもそも彼がここに紹介になったのも、近所の先生が寝たきりである彼の母親を往診に行った際に、介護をしている彼の顔色があまりに悪くて、彼をここに連れてきたのです。

最近困っていたことは何だったのか聞いたところ、
当然自分の体調や病態などへの不安などだろうと思っていたのですが、
なんと、
「自分の体調が良くないため、介護をしている母にどうしても機嫌が悪くなっている自分が辛い」でした。
実は、彼は精神疾患を患っていてほとんど外出することはなく、働いて稼ぎを持ってきてくれる弟と、寝たきりの母との3人暮らしをしています。
さぞかし大変な生活だろうと思いますが、彼の言葉からはそんな下衆の勘繰りとは無関係に、
母や弟に対する深い感謝や愛情の念が出てきます。
おそらく精神疾患のために、われわれの抱く損得勘定や不平不満の感覚は鈍麻し、思いやりや責任感といった感覚が研ぎ澄まされているのでしょう。
診断は、潰瘍性大腸炎でした。

医者は、彼のような患者を前にしたときどうしても治したいと強く思います。


週の半分は二日酔いで機嫌の悪い自分の贖罪のためかも知れません。

   長野中央病院 消化器内科 小島