秋のパリはあいにくの雨・・・

10月25日、出発前から少し風邪気味で、どうなることやらと思いながらフランスに向けて、いよいよ出発したのでした!せっかくのパリということもあり、今回は妻と1歳になる愛息も一緒です。
予想はしていたもののエールフランスの機内では、周期的に泣いてくれてちょっと大変でしたが・・・。

日本では学会出張へ行くのに夫婦同伴で、という話はあまり聞かれませんが、欧米では、学会に限らずフォーマルな場に夫婦同伴で出掛けて行くのはごくあたりまえの事だそうです。

昼間、旦那さんが学会に出ている間、御婦人方は市内観光などを楽しみ、夜は夫婦揃ってパーティーなりディナーへ繰り出す、というのが普通。既婚男性が1人で泊まりの学会にやって来る事の方がむしろ不審がられるのだそうです。

さてさて、無事パリに到着。少し早めの日程を組んだので、会場の下見などすませたら、発表のことはしばし忘れてパリの観光です。

建物、街路樹、道行く人々、すべてが美しく(道路は日本にくらべて汚いのですが・・・)、日頃の診療のことは忘れておおいにリフレッシュでき、充実した休暇を過ごせました。

海外だと、携帯電話からも完全に解放されるのも嬉しいです。

しかし、リフレッシュしてばかりはいられません。
10月28日、発表前日。
にわかに緊張し始め、原稿を何回も読み返して声に出して音読。
しかし、いい加減嫌になって、ワインを飲んで就寝。
・・・そして迎えた発表当日。ホテルの窓から外を見ると、何と雨。
しとしと暗く雨の降る中、メトロ(パリの地下鉄)に乗って、会場であるPalais des Congres会議場へ。
僕の発表は11時過ぎからなのですが、3時間前までには発表スライドの登録をしなければいけないので、8時前に会場入り。スライドの登録を無事すませて、後は、自分の時間になるまで会場内をあちこち見て回りメイン会場へ。広い会場は大勢のドクターたちの熱気でムンムン。
しかも、当たり前なのですが、すべて英語によるpresentation。
とにかくその場の雰囲気すべてに圧倒されてしまいます。

他の人の発表を聞いていても、あまり集中できないため、早めに自分の発表会場へ移動することに。
200名ほど収納可能な発表会場に入り、自分の席を確保して、しばし心の準備です。いよいよ開会時間が近づいてくると、予想した以上に人が入ってくる。
100名ほども入ったところで司会者が開会の挨拶。
幸い、自分はプログラム上2番目の演者なので、まずはトップバッターの発表を良く聞いて参考にしてやろうと考えていると、なぜかいきなり自分のスライドがスクリーンに映っているではありませんか。

どうやら1番の発表者の先生は、「敵前逃亡」、ドタキャンしてしまったようなのです!

司会者に紹介され、慌てて壇上に上がったものの、心の準備もどこへやら、すっかり舞い上がってしまい、聴衆へ視線を送る余裕などあるはずもなく、用意した原稿を棒読みするのがやっと・・・。それでも、努めてゆっくりと、できるだけ正確な発音で発表することは忘れず、何とかpresentationは無事終了。

しかし、実は、ここからが一番の難関である質疑応答です。
これがまた、2分間もあるのです。

まずは、司会者の教授先生みずからご質問。
どうやら、「あなたの施設では、すべての内視鏡例でこのような綺麗な写真を撮って検討されているのですか?」、という事を聞かれたようなので、拙い英語ながらも、自信を持って、「そうです。」とお答え。





その後フロアからの質問が・・・。



1人目・・・、


「どうして胃の上部で見逃しが多いのか?それから、・・・(以下聞取り不能)」と質問され、しどろもどろになりながら答えていると、司会の先生が助け舟を出してくれました。



2人目・・・、



「○△□×☆凹・・・」もう全く、何を言っているか、そもそもこれは英語なのか?という感じでさっぱり理解できず、壇上でしばしfreeze。見かねた司会者が代わりに応答してくれましたが、会場の冷ややかな目が痛かったです。それでも最後にはパチパチと拍手を頂き、なんとか無事に終了。


大量の汗をかき、放心状態でその後の発表を聞いていました。すると僕の発表の時に2番目で質問した白髪初老の先生は、他の発表でも何回も質問をするものの、欧米人の発表者でさえ「・・? Pardon?」と聞きかえすことが多く、どうやらかなり訛りのある英語を話されている方のようだと判明。
そうか、それでは自分が聞き取れなかったのも無理はないなと、納得しましたが、自分の英語力の無さには変わりなく、恥ずかしい限りの発表でした。

その後、昼食に用意された、残念ながらあまり美味しいとは言えないバゲットサンドを頂き、会場内の散策です。
意外と女性医師が多いことにびっくりし、また製薬会社のブースでは薬の内容に関連したゲームの景品目当てに行列を作っている欧米人医師たちの姿に驚き、さらにどのブースでもチョコレートやらキャンディーなどが用意されていて、中には、クレープを焼いて来場者に振る舞っているブースまであり、これにはカルチャーショックを受けました。

学会発表は、その場での聞き取り能力がなく、なかなか理解が難しかったのですが、抄録などを見る限りでは、日本とは関心・話題の領域は若干異なるものの、内容的には日本の学会でも発表されているようなものが多く、国際学会と言っても、ふたを開けて見れば、日本での学会とあまり変わりないと言うことが良くわかりました。

現在の日本の医療・医学のレベルは着実に世界にキャッチアップしてきているということでしょうか。
特に消化器内科分野における日本のレベルは世界的にみても、非常に高いところにあるそうです。
自分で言うのも何ですが、自分の抄録が通った時点でうすうす気付いていたことではあります。

ともかく、他の日本人発表者が「○○大学」とか「△△研究所」などの肩書きがあるなかで、当院のような地方の300床規模の病院でも、発想と研究内容がしっかりしていれば、国際学会でも十分に通用するんだ、ということが実感でき、とても良い経験ができたと思っています。

後は、言葉の壁を突破することでしょうか?

自分としては、またエントリーしてやろうという気には、まだなりませんが・・・。


でも、パリにはまたいつか訪れたいと思っています!







■参考URL

UEGW2007in Paris 公式サイト(英語・外部リンク)
http://www.uegw.org/


日経メディカルオンライン(日本語によるUEGW2007の特集記事・外部リンク)
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/gakkai/uegw2007/



たじま たけひろ
長野中央病院 消化器内科
2003年信州大学医学部卒
長野中央病院にて初期研修
その後、伊那生協診療所、諏訪共立病院にてプライマリケア研修
2005年より、長野中央病院で消化器内科専攻